一号線を辿って箱根の山をくだり終わるとすぐに無料の伊豆縦貫道と交差する。
縦貫道に入り南下するとほどなくその道は終点になり、有料のトンネルへと続く。
トンネルは前方の小さな山を貫通しているのだが、山はそのすぐ左方で終わって平地になる。
そこを迂回すればいいことなので、いつもその有料トンネルは使わず、手前の信号を左折する。
山の向こう側へ回ると、菜の花畑がある。
先週は、その赤ん坊のような無垢の生命力一杯の黄色と、それを喜んでいるような透き通った青空で、幸せな風景だった。
今日はその黄色が少しまばらにすき始め、代わりに桜の樹姿に淡い色がまとい始めていた。
もうすぐ4月になる。
ヨットは、今メンテナンスのために上架してある。
前々々回、帰港して船内に入るとビルジが床上まで上がっていて慌てた。
シャフトシールからの漏水だった。
沈船というイメージが直結してしまって緊急事態発生となった。
とにかく漏水を止めなくてはならない、という思いが先行した。
シャフトシールの仕組みを理解していれば違った対処が出来たが、
とりあえず応急処置を終え、シャフトシールの交換をしなければならないと判断した。
そのためには上架しなければならないが、近日中に船底塗料の塗り替えとバルブの取替えをするために上架することにしていたので、
その前にシャフトシールの劣化が分かってよかった。
シャフトシールの納期が一ヶ月ほどかかるとの事で、上架日程をそれに合わせた。
上架してみると、今までの長い間船底塗料をただ塗り重ねていくだけだったと見えて塗膜が厚くなっており、それが所々剥がれ落ちてデコボコしていて、見るからに情けない。
指でも層ごともろっと剥がれるものの、スクレッパーでも剥がせない個所もある。
古い塗膜層は全部剥がすことにして、この船を蘇らせたいと思った。
船齢は古いがいい船なのだ。
いざ剥がすとなると、電動工具を持ち出してもそんな簡単なことではないことが分かり、
これはボートサービスに依頼することにした。
結局ボートサービスには、船底塗料塗り替え一式とシャフトシール取替えとシャフトベアリングの取替えを依頼することになった。
古い塗料の剥がしがかなり高額で予定外の痛い出費だが、いずれやらなければならない事であるなら早くやって快適な状態で乗った方がいい。
菜の花畑を抜けて15分ほどでボートサービスに着くと、塗膜の剥がしが既に終わっていて船は綺麗なハルを現していた。
珍しく相棒とNさんが先に来ていた。
既存の砲金のバルブを、用意した樹脂製のバルブに取替え、ラダーを戻し、電気配線の整備をした。
このあと新しく船底塗料が塗られ、次週には船はバースに戻っている筈だ。
これで買ったときの懸念課題をおおかた終了する事が出来た。
思い返せば、実に様々なメンテをやった。
蘇った船のハルを下から眺めていると逞しさを感じる。
船に新しい命が宿ったようだ。
我らの船という感慨が涌く。
この新しい命は、希望も新たにして広い海原に我らを誘う。
どういう航海が待っているのだろう。
雨が降って来ていた。
雨の冷たかった季節が終わっていることに気付いた。
雨を顔に受け、少しだけ息を大きく吸ってみた。
船名を決めてやらねば。